業務改善を行う技術のひとつであるIE(インダストリアル・エンジニアリング)。IEは製造業界において特に有効な手法であり、現場のコスト削減や生産性の向上を実現するための手段として広く活用されています。
本記事では、IEの概要や手法、メリットなどを解説します。
IE(インダストリアル・エンジニアリング)とは?
まず、IEについての概要を紹介します。
作業や工程を科学的に分析する手法のこと
IE(インダストリアル・エンジニアリング)は、”Industrial Engineering”の略称であり、生産工学または産業工学と訳されます。この学問は1910年代にアメリカの技術者兼経営学者、フレデリック・テーラーによって提唱されました。戦後になって日本に伝わり、現在では大手自動車メーカーをはじめ、様々な企業の製造現場だけでなく、物流・農水産業・サービス業などでも幅広く活用されています。
IEにより、予算から原価管理、生産技術の開発や効率化など、経営上のさまざまな問題を工学的な手法にもとづいて合理的に推し進めていきます。さらに、生産の時間的管理や効率の徹底、一貫生産の管理をスムーズにするための計画なども含まれます。
IE活動によって業務改善を行う
IE活動によって、特定の工程や作業内容だけでなく、組織のルールや資産管理の仕組みなど、経営に関するやり方全般を最適化します。無駄を排除した最高の状態を目指すことが目的であるため、日々分析と改善を繰り返し行います。
例えば、低コストかつ生産性を向上させるには、作業内容・工程・設備投資・人員の配分・仕入れ先など、事業活動全体の見直しが必要です。ただし、IE活動には社員の協力が不可欠なため、現場からの不満が増えないように業務改善を行わなくてはなりません。
IEを活用する目的
IEを活用する最大の目的は、企業全体の最適化を図ることです。IEは製造現場(生産管理)に限らず、企業内のさまざまな現場で3つのM(ムリ・ムダ・ムラ)を洗い出し、効率を向上させるための改善を行います。これにより、生産性と収益の向上が期待できます。
IEの活用範囲は非常に広く、工場などの生産現場だけでなく、事務作業にも適用できます。例えば、事務作業においても業務の流れや手続きに無駄やムダがある場合、それらを洗い出し、改善することで業務の効率化が可能です。データ入力の効率化や文書管理の改善など、様々な領域でIEの手法を適用することができます。
IEの代表的な手法
IEには様々な手法があります。ここでは、代表的な手法をいくつか詳しく解説していきます。
方法研究
方法研究とは、作業・工程・動作を分析してより良い方法を探し出すための手法です。それぞれ細分化し分析することで、「なぜ、この作業が必要なのか?」「なぜ、この動作が必要なのか」と疑問を持つことがスタートになります。そして、そうした疑問を掘り下げることで3つのM(ムリ・ムダ・ムラ)を早く発見し改善に繋げることができます。
方法研究の具体的な実施方法には、以下の3つの分析があります。
①工程分析
工程分析では、材料から製品化までを「加工」「運搬」「検査」「停滞」の4つに分けて分析します。
・加工
原料に熱処理や切削を行ったり、部品を組み立てたりする
・運搬
機械や人力で加工品や製品を運ぶ(流れ作業)
・検査
仕様書通りに製造されているか、品質に問題はないかなどを検査する
・停滞
上記3つの工程がなされず、放置されている状態(各工程間の待ち)
記号を使い、それぞれの過程を図に表すことで現状や工程全体が明確になり、問題点や課題が表面化しやすくなります。結果として、工程の流れの中に潜むムダや余剰検査などを把握、改善することができます。
工程分析を行うと、各工程における課題の把握と改善が容易になります。例えば、製品が仕様書通りに製造されていない場合、切削の精度や熱処理方法などに問題がある可能性が高いです。工程分析を行うことで、加工工程の分析が済んでいれば、問題の把握と改善案の立案が可能となります。
②動作分析(作業分析)
動作分析では、作業者の動作内容を細かく分析することで無駄な動作をなくし、より効率的で疲れない動作方法・作業順序を追求します。
「動作」には、作業者の手の動きだけでなく、目の動き、移動するときの姿勢や距離、そして作業をする際の思考時間も含まれます。これらの要素を細かく分析し、効率的な動作方法を見つけ出すことで、作業のムダや無駄を削減します。また、作業者の負担を軽減することにより、生産効率の向上だけでなく、作業者のモチベーションや生産性の向上にも寄与します。
動作分析によって得られる改善は、非常に細かな部分にあることがありますが、その効果は大きい場合もあります。特に、生産数が多い製品の生産時には、数秒単位の改善でも、全体の生産効率に与える影響は大きいです。時間の短縮や無駄の削減により、生産ライン全体の効率が向上し、生産性の向上やコスト削減に繋がります。
③運搬分析(マテハン分析)
運搬分析(マテハン分析)は、材料の入庫から製品として出荷されるまでのすべての工程における、材料や製品の扱い方や搬送に関する分析手法です。材料や製品の搬送には、一次保管から始まり、工程間搬送、包装工程への搬送など、さまざまな移動が含まれています。これらの搬送作業において発生するムダを洗い出し、搬送作業を改善することで、効率化や生産性の向上を図ります。
運搬分析では、以下のような要素に焦点を当てて分析が行われます。
・移動時間:材料や製品の搬送にかかる時間を分析し、ムダな待ち時間や長い移動時間を特定します。
・移動距離:材料や製品の移動に要する距離を評価し、不要な距離の移動を削減します。
・移動回数:同じ材料や製品が何度も移動することで発生するムダを見つけ、移動回数を最適化します。
・移動経路:最適な移動経路を見つけることで、無駄な迂回や重複した移動を排除します。
・移動方法:搬送に使用する機械や装置の適切な選定や改善を行い、効率的な搬送方法を確立します。
これらの搬送作業において発生するムダを洗い出し、搬送作業を改善することで、効率化や生産性の向上を図ります。
作業測定
作業測定とは、それぞれの工程における作業時間を測定・分析する手法です。
作業時間や作業方法を客観的に数値化することで、作業に必要な標準時間の目安を立てることができます。また、実際の作業時間を測定し、標準時間と比較することでムダな作業を顕在化し、改善します。
作業測定の具体的な実施方法には、以下の2つの分析があります。
①稼働分析
稼働分析とは、作業者や設備がどのような要素にどれくらいの時間を使っているかを把握することで、稼働状態を分析する方法です。
まず、休憩や計画停止などの非稼働時間を省いた、実際の作業時間(実操業時間)を把握します。その中で、稼働している時間と稼働していない時間を明確に区分します。稼働していない時間には、様々な要因が存在します。
例えば、前工程からの待ち時間や材料供給による稼働停止、設備のトラブルによる停止などが考えられます。これらの要因のうち、生産ラインや作業プロセス全体に大きな影響を与えるものを特定し、改善策を講じることで稼働率の向上を図ります。具体的な改善策としては、生産ラインの設計の見直し、待ち時間の削減、材料供給の効率化、設備の保守・点検の徹底などが挙げられます。
②時間分析(時間研究)
時間分析とは、ある作業を要素や単位といったレベルで細かく分け、それらの時間を観測・記録して分析する手法です。時間分析により、作業の各要素にかかる時間を把握し、効率の向上や生産計画の策定に役立てることができます。
時間分析には主に「ストップウォッチ法」と「PTS法」の2つの手法があります。
・ストップウォッチ法
ストップウォッチ法は、各動作にかかる時間を実際に現場でストップウォッチで計測する基礎的な手法です。作業者が実際に作業を行う際に、動作の開始から終了までの時間を計測し、それらの時間を記録します。この手法によって、各作業の実際の時間を正確に把握することができます。ストップウォッチ法は、作業の細かな動作やムダな動作を特定するのに有効であり、改善の対象を見つける上で重要な手法です。
・PTS法(Predetermined Time System)
PTS法は、各基本動作に対して標準時間を事前に決め、その組合せにより標準時間を設定する手法です。標準時間は、作業の特性や難易度に基づいて設定されます。この手法を用いると、作業の性格に応じて標準時間を素早く見積もることができます。PTS法は、生産計画の策定や作業工程の設計において用いられ、効率的な生産を実現するために役立ちます。
IEのメリット
製造業におけるIEには、様々なメリットがあります。ここでは主なメリットを3つご紹介します。
無駄な業務を発見できる
IEは、製造現場に限らず、企業全体の作業・工程・動作をあらゆる角度から分析し、客観的な視点で無駄な業務を発見します。無駄な作業や無駄な時間を洗い出すことで、合理的な対策を講じ、生産性と収益の向上が期待できます。また、効率を高めるために、生産ラインの再設計や作業手順の改善なども行われます。
記号化・図表化で業務を客観視できる
IEは、定量化した情報を「記号化」「図表化」することにより、無駄をわかりやすくするだけでなく、作業の流れや手順、期間、各工程や作業との相互関係を確認することができます。これにより、現状を客観的に把握し、改善のための具体的なアプローチが可能になります。また、複数名やチームで効率化を目指す場合や、企業内で成果を共有する場合にも有効な手段と言えます。
業務を見える化して現状把握できる
IEの分析によって、無駄を洗い出し、記号や図表、数値、グラフを用いて現状を表現することで、効率的な現状把握や分析が可能になります。特に、複雑な工程や細分化された作業、相互関係がある製造現場にとって、現状把握は無駄を洗い出す際に重要な作業であり、企業の成長に大きく影響を与える要素となります。見える化によって、問題点や課題を明確にし、優先順位を付けて効果的な対策を立案することができます。
IE手法を使う際に注意するポイント
ここからは、IE手法を用いて工程を分析・改善する場合に注意すべきポイントを2つ紹介します。
1. 分析を客観的に行うこと
分析によって得られる結果は、誰が行っても同じ結果である必要があります。客観的な分析を実現するためには、以下の点に注意する必要があります。
・同じ手順で作業を行う:分析を行う際には、作業を行う人が異なっても同じ手順で作業を行うことが重要です。これにより、作業の差異による結果のバラつきを防ぐことができます。
・揺らぎのないデータ収集:データ収集は正確かつ信頼性のある方法で行われる必要があります。分析の根拠となるデータが揺らぎなく収集されることが重要です。
・事実をありのまま分析する:分析を行う際には、事実をありのままに捉えることが大切です。主観的な意見や予想をデータに反映させないよう注意しましょう。
2. 分析を定量的に行うこと
定量的なデータに基づいた分析を行うことで、客観性を保ち、具体的な数値による改善策を立案することが可能となります。以下の点に注意して定量的な分析を行いましょう。
・データの記号化・グラフ化・図表化:収集したデータはわかりやすく整理し、記号化、グラフ化、図表化することで、直感的に理解できる形に変換します。これにより、問題点や課題が視覚的に把握できるようになります。
・定量的な指標の使用:分析には数値化できる指標を使用し、具体的な数値データを得るよう努めましょう。定量的な指標を使用することで、改善の効果や進捗を明確に把握することができます。
IE手法の活用は、こうしたポイントを押さえた上で行いましょう。
IEの活用事例
ここでは、IE手法を活用して生産性を向上した事例をご紹介します。
物流現場におけるピッキング作業には、庫内作業者の高齢化に伴う減少傾向が見られ、専任のピッキング作業者だけではなく、他の工程からの応援が増加していました。
この課題に対し、IE手法を活用することで、生産性の向上に取り組むことが行われました。まず、応援者の作業動作を確認した結果、特に経験の浅い作業者にはムダな動作が多いことが判明しました。そこで、「秒」の目で動作を切り込む分析を行い、作業手順書では表現しにくい細かな動作を詳細に把握。この分析により、ムダな動作を特定し、ピッキングに関わる作業動作の改善を図りました。また、応援者間での作業動作を統一することで、作業の効率性を向上させることも目指しました。
この作業動作改善の結果、ピッキング作業の生産性が向上しました。特に経験の浅い作業者がより効率的に作業できるようになり、作業手順の統一によって動作時間の削減に成功しました。
まとめ
本記事では、IEの概要や手法、メリット、注意すべき点などについて解説しました。IE手法を活用することによって、生産現場の問題解決に大きく貢献することができます。是非、本記事を参考にしてみてください。
最後に、クロス・オペレーショングループは、営業・カスタマーサクセス・カスタマーサポートのオペレーション構築・効率化に向けたコンサルティングサービスを提供しています。IEによっても解決しない問題がある方は、ぜひクロス・オペレーショングループにご相談ください。
この記事を書いた人
コラム編集室
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