属人化
属人化とは?原因やリスク、解消するための5つのステップ
2023.08.07
属人化とは
属人化とは、企業内で特定の社員が担当している業務の詳細内容や進め方が、当人以外では分からなくなっている状態のことで、ビジネスの現場では一般的にはネガティブな文脈で使われている言葉です。本記事では、属人化が起こってしまう原因と、そのメリット・デメリット、属人化の具体的な解消方法について解説していきます。
属人化が起こる原因
属人化が起こってしまう原因としては、主に下記の4つが挙げられます。
1.業務が忙しすぎる
業務が忙しい状況では、特定の個人が一人で多くの業務を担当する必要が生じます。時間的な制約や優先度の高いタスクに追われる中で、業務を素早くこなすために、個人は自身の方法論やノウハウを独自に発展させることがあります。これにより、業務が個人に密着し、属人化が進行します。
また、業務が忙しい状況では、業務の引継ぎやドキュメンテーションなどの業務改善活動に割く時間が限られる場合があります。長期的な視点やプロセス改善に対する余裕がなくなり、業務の標準化や効率化の取り組みが後回しにされることがあります。他のメンバーや部門とのコミュニケーションや協力という点においても、個人が自身の業務に集中するため、情報共有や知識の共有がおろそかになる場合があります。
2.業務の専門性が高い
高度な技術や専門知識が求められる業務では、特定の個人がその業務を最も適切に処理することが期待されます。その個人は深い知識や経験を持ち、高度なスキルを持っていることが多いです。このような個人は他のメンバーよりも業務を迅速かつ効果的にこなすことができるため、組織内でその業務の専門家として認識され、業務が集中していく傾向があります。
また、高度な専門性を要する業務は、これまでの経験則や洞察力が重要とされることがあり、経験豊富なメンバーが業務を遂行している場合、その知見や洞察力は他のメンバーには容易には代替できません。業務の遂行が特定の経験や洞察力に依存する傾向が強まることにより、業務の属人化が進行します。
3.個人成果主義
「個人成果主義」が根付いている現場では、個々のメンバーの成果やパフォーマンスが評価や報酬に直結することが多いです。そのため、メンバーは自身の成果に焦点を置き、個人の業績を最大化することに注力する傾向があります。これによって、情報や知識の共有が後退し、業務の属人化が進行します。
また、個人が持つ情報やノウハウが、社内における競争においては、他のメンバーに対する優位性として考えられる傾向があります。そのため、各々がその優位性を守るために、必然的に情報共有の文化は根付かず、属人化が深刻化していきます。
4.情報共有の仕組みが確立していない
業務マニュアルや社内コミュニケーションツールが不足している場合、重要な業務や手順に関する情報が適切に伝達されず、特定の個人に知識やノウハウが集中し、属人化が進行する傾向があります。
また、情報共有の不足は、業務の透明性や連携の欠如を引き起こします。他のメンバーが業務に関する情報や進捗状況を把握できないため、業務の理解や協力が困難になります。これによって、特定の個人が業務を独占し、属人化が進行します。
属人化することによるデメリット・リスク
業務の属人化によって引き起こされる、リスクやデメリットには、主に下記の4つが挙げられます
1.業務効率が低下する
業務が属人化してしまうことによって、業務のフローにおいて特定の個人がボトルネックとなります。他のメンバーが業務をその個人に依存しているため、業務の進行や意思決定がその個人に集中し、その個人の能力によって業務がブロックされたり、意思決定が遅れたりすることで、業務のスピードや効率が低下してしまう可能性があります。
また、業務が特定の個人に依存している状況においては、休暇や異動など、その個人が業務を担当できない場合に、その業務に関する知識や手順が他のメンバーに共有されていないため、他のメンバーがその業務を代替することが困難となり、業務の進行や遂行が滞る可能性があります。
2.業務品質が低下する
業務が属人化している場合、顧客へのアプローチの方法や業務の進め方はそれぞれの担当者によって異なるため、サービスの品質がバラバラとなってしまい、安定した品質の提供を妨げてしまいます。
また、担当者によってサービスの品質がバラバラとなってしまうことは、顧客の不安感や不信感につながり、満足度を下げてしまう要因にもなってしまいます。
また、特定の個人のみが業務の全体像や課題を把握している場合、その個人が関与しないと問題の発見や解決が遅れることがあります。業務品質の向上や改善のためには、複数の視点や経験を活かした問題解決が重要であり、属人化がそれを制限する可能性があります。
3.品質管理やマネジメントが難しくなる
業務の属人化が進むと、情報が特定の個人に集中し、他のメンバーやマネージャーに必要な情報が十分に共有されていない場合があり、情報の断片化や可視性の低下により、業務のチェックやバランスが不十分になる可能性があります。特定の個人による業務の属人化が進行している場合、他者からのフィードバックが制約され、ミスやエラーの発見が遅れることがあります。
また、属人化された業務では、特定の個人に多くの責任が集中し、その業務を適切に管理するためにはマネジメントの負担が増えます。その個人とのコミュニケーションや調整、監督などの責任が増加し、マネジメントリソースの配分や効率性に課題が生じる可能性があります。
4.業務に対するノウハウを蓄積できない
属人化が進むと、業務に関する手順や方法が適切にドキュメント化されないことがあります。特定の個人が業務を担当し、その個人の頭の中にあるノウハウが書かれた文書化された形式になっていない場合、他のメンバーにはそのノウハウを学ぶ機会が制約されます。ドキュメンテーションの欠如はノウハウの蓄積を困難にします。
属人化した状態で仮に優れた実績を残していたとしても、ノウハウの共有がされなければ、組織としてその再現性を担保することができません。また、担当者が離職した際には、優れた実績を残したノウハウも同時に失われてしまうこととなり、組織の競争力の低下、失客にもつながる恐れがあります。
属人化を避けるべき業務とは
前述のとおり、属人化には多くのリスク・デメリットがありますが、下記の4つの業務については、特に属人化を避けておくべきものとなります。
1.経理・総務などのバックオフィス業務
バックオフィス業務では、契約書の締結や請求書の処理、データ管理などの企業の内部プロセスや裏方業務を担当するものであり、効率性や品質管理が重要です。特定の個人に業務が依存すると、その個人に問題が生じた場合に業務の停滞や遅延が生じる可能性があります。業務の継続性を確保するためには、複数のメンバーが業務を理解し、必要な知識やスキルを共有する必要があります。
2.顧客対応業務
顧客対応業務は、顧客との関係構築や要求に応える重要な業務です。顧客対応業務は顧客満足度や企業の評判に直結するため、属人化が進行し特定の個人に業務が依存してしまうと、その個人の能力や負荷によって顧客サービスの質が低下する可能性があります。
担当する個人によってサービス品質やアプローチに左右され、サービスとしての一貫性が欠けることにより、顧客に対する統一された体験を提供することが困難になり、顧客満足度が低下し失客につながる恐れがあります。
3.自社製品やサービスに対する説明
自社製品。サービスの説明においては、組織全体での共通のメッセージやスタンダードを確立し、説明の一貫性を保つことで、顧客への信頼構築とブランド価値の向上につなげることができます。
属人化された説明では、個別の個人のスタイルやアプローチが反映されるため、説明の一貫性が欠如する可能性があり、信頼関係の構築やブランド価値の低下につながる恐れがあります。
4.重大性の高いトラブルシューティングやインシデント対応
企業全体の経営にかかわるような重大なトラブル、インシデントの対応において、属人化が進むと、特定の個人に対してインシデント対応の責任が集中するため、その個人の負荷や判断によってリスクの把握や対策が制約される可能性があります。
また、その個人が離職した際に特定の情報や手順が他のメンバーに十分に伝達されていなかった場合に、他のメンバーが対応に遅れる可能性や、初動対応のミスにより、情報の漏洩等のリスクが高まります。
リスク管理は組織全体で行われるべきであり、複数の関係者が関与することが望ましいです。
属人化がメリットとなる場合
一般的にはマイナスのイメージのある属人化ですが、一部の業務や特定の状況に限れば、メリットとなる場合があります。下記のような業務においては、属人化していることがむしろプラスに働きます。
1.高度な専門技術を要する業務
例えば、エンジニアリングなどの高度な専門技術を要する分野では、特定の個人が深い知識と経験を持っている場合があります。属人化された業務では、その個人が業務に集中し、その専門技術を最大限に活かすことにより、業務の品質や効率性が向上するメリットがあります。
また、高度な専門技術を要する業務では、専門家が自身のスキルを発展させることが重要です。属人化された業務では、専門家が自身のスキルセットを磨く機会が与えられ、専門性を高めることができます。結果的に、組織内の専門スキルの維持や競争力の維持につながるメリットがあります。
2.個別顧客へのサービス提供
特定の個人が顧客との関係を構築し、カスタマイズされたサービスを提供する業務では、その個人の人間性や信頼関係が重要な要素となり、顧客との長期的な関係構築や顧客満足度の向上につながることがあります。
しかしながら、それはあくまでもその特定の個人が恒久的に顧客との関係を維持し続けることが前提となっており、例えば、退職や異動などで顧客の担当者が変わるような場合には、属人化によるサービスの一貫性の欠如により、かえって顧客満足度を下げてしまう可能性があります。
これらの業務においても業務の属人化は一概には望ましくありません。知識や情報の共有、チーム間の連携、バックアップ体制の構築など、組織全体で業務をサポートする仕組みを整え、組織の効率性や持続性を考慮しながら、業務の属人化を適切に管理することが求められます。
属人化を解消するメリット
属人化の対義語として「標準化」という言葉があり、組織や業界において一定の基準や規格を定め、業務やプロセス、製品やサービスなどを一貫性のある形で統一することを指します。
業務の属人化を解消(標準化)することで組織に与えるメリットは、主に下記の3つが挙げられます
1.業務品質の維持・向上
業務の属人化の解消によって、一貫性のある手順や基準が確立されます。業務の流れや方法が統一されることで、メンバー間での作業のバラつきやミスが減少し、顧客へのサービスや製品の提供において高い品質が維持されます。
また、業務の標準化により、新しいメンバーのトレーニングや教育が効果的に行えます。標準化された手順やプロセスが存在するため、新入社員や他のメンバーへのスキルや知識の伝達が容易になり、統一された教育プログラムにより、メンバーのスキル向上が促進され、品質の向上に寄与します。
2.業務効率・遂行速度の向上
業務の属人化の解消によって、知識やノウハウが全体で共有されます。チーム内のメンバーが持つ知識や経験が活かされ、情報やベストプラクティスがメンバー全体に共有されることで、業務のスタンダード化とプロセスの最適化が進められます。プロセスの最適化は効率的な業務フローの確立や改善によって、無駄な手間や時間の削減を図ります。これにより、業務の効率性や遂行速度が向上します。
また、属人化が解消されると、業務のリスク分散やバックアップ体制の構築が可能となります。特定の個人に依存しない業務遂行が行われることで、個人の不在や制約による業務の停滞や遅延を回避できます。チーム全体が業務をサポートし、必要なタイミングで業務を引き継ぐことができるため、業務の効率性や遂行速度が向上します。
3.組織運営の円滑化
業務の属人化の解消によって、業務全体の透明性の向上と情報共有を促進します。業務の手順や基準が明確化されることで、メンバー間での情報共有や業務の可視化が容易になり、透明性が高まることで、チーム全体や関係部門間での連携や意思疎通が円滑化し、組織の運営が効率的になります。
また、属人化が解消された業務は、組織の拡大・成長の促進に寄与します。組織が成長するにつれて、業務量やチームの規模が増えることがありますが、標準化された業務プロセスは、新たなメンバーや部門の統合をスムーズに行うことができ、組織の拡大や変化に柔軟に対応することができます。
属人化を解消する5つのステップ
前述のとおり、属人化を解消することで、組織に多くのメリットをもたらすことができます。それでは、実際に属人化を解消するためにはどのような手順を取ればいいのでしょうか。
必要なステップは下記の4つです。
ステップ1:業務の実態把握と分析
業務の実態把握と分析は、属人化の解消に向けた重要なステップです。リスク特定や軽減策の立案、効率化や改善の機会の発見、ナレッジマネジメントの促進につながります。現状を正確に把握し、業務の優先順位を判断することで、組織全体の業務の効率性と持続性を向上させることができます。これにより、リスクの分散化やチームの協力強化、業務の継続性の確保など、組織にとって重要なメリットをもたらすことができます。
ステップ2:ボトルネックとなっている業務の選定
業務の標準化には時間とリソースが必要です。全ての業務を一度に標準化することは難しいため、限られたリソースを最適に活用する必要があります。ボトルネックとなっている業務の選定は、業務効率や品質に最も大きな影響を与える業務を優先的に改善することを意味します。
また、ボトルネックとなっている業務が解消されることで、他の関連業務にも波及効果が生じます。ある業務が他の業務のボトルネックとなっている場合、その業務の改善や標準化によって他の業務の効率性や品質も向上することが期待できます。
ステップ3:業務フローの整理
業務フローの整理によって、業務の手順やプロセスが明確化されます。各業務のステップや関連するタスクが整理され、どのような流れで業務が進行しているのかが可視化され、メンバーは業務全体を俯瞰し、業務の全体像を理解することができます。
整理された業務フローは、各段階でのチェックや検証ポイントを明確化し、品質管理を強化することができます。また、業務の手順や責任が明確になることで、ミスや過誤を防止する効果もあります。
ステップ4:マニュアルの作成
マニュアルの作成によって、業務の手順や方法を明確にドキュメント化することにより、組織内のメンバーが共通の理解を持ち、業務を一貫して実施することが可能となります。マニュアルは、業務の基準となるガイドラインとして役立ち、業務の一貫性と品質の向上を支援します。
また、マニュアルを作成することは業務の伝承と知識保持のために重要な役割を果たします。経験豊富なメンバーが退職したり異動したりした場合でも、マニュアルがあれば業務の知識やノウハウを引き継ぐことができ、継続的な業務の安定性を確保します。
ステップ5:継続的な施策の見直し
組織や業界は常に変化しています。市場環境や顧客ニーズの変化、技術の進歩などにより、業務にも変化が生じることがあります。継続的な施策の見直しによって、業務の標準化が変化に対応し、新たな要件や課題に適応することができます。
組織のメンバー全員が関与し継続的な施策の見直しを行うことによって、メンバーからのフィードバックや意見を収集し、取り入れることができます。メンバーの経験や視点を活かした改善や調整が行われることで、業務の標準化がより現実的で実効性のあるものになります。
まとめ
特定の従業員だけしか仕事の仕方を把握していない属人化状態は、業務効率や業務品質を悪化させる恐れがあるため、早期に解決すべき経営課題です。特に、バックオフィス業務や顧客対応業務は社内で業務の仕方を共有し属人化を防いでおかなければ、顧客からの信頼を失い、失客してしまうリスクもあります。
今一度、現状の業務プロセスを見直し、業務の属人化が発生していないかを確認し、もしも業務の属人化が発生しているのであれば、業務フローの整理やマニュアル作成など、誰もが高い品質で、継続して、効率的に業務を遂行することができるような仕組み作りをしてみてはいかがでしょうか。
最後に、属人化の解消についてのメリットの理解、放置することのリスクについて危機感を感じてはいるものの、属人化の解消に取り組むための時間がない、属人化の解消に向けて施策を実行できる人材がいないなどの理由で、中々取り組みができない企業も多いのではないでしょうか。クロス・オペレーショングループでは業務の洗い出しや、業務フロー・マニュアルの作成から、社内での継続的な施策の見直しまでのオペレーション構築のサービスを提供しております。
もし、業務の属人化でお悩みでしたら、一度ご相談くださいませ。
この記事を書いた人
佐久間 純也
2023年6月入社。老舗の卸売業者にて経理をはじめとしたバックオフィス全般、営業事務等の業務改善を経験した後、地域の会計事務所にて、経営財務コンサルタントとして従事。財務会計分野だけでなく、お客様の課題解決に広く携わりたいと思い、クロス・オペレーショングループに入社。お客様に寄り添ったヒアリング、課題整理が得意。娘の影響で最近TVゲーム熱が再燃している。
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