クライアント事例
Case Study
企業 | アイセールス株式会社 |
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業種 | SaaS(MA) |
規模 | 1~50名 |
PJ概要 | SaaS事業の顧客単価を2倍にすることで黒字化を達成し事業売却 |
支援前の状況・課題
VCや投資家から数億円の資金を調達し、SaaS事業を行っていた。スタートアップ特有のJカーブと言われる赤字を許容した事業運営を行っていたが、コロナ禍の調達環境の悪化に伴いエクイティではなく事業収益によるキャッシュフローの構築を行う必要が生じていた。会社全体としてもエクイティ調達が行われていれば赤字を許容し、1円に拘って固定費の管理をするという意識は薄い風土となっていた。
PL数値の向上のために、トップラインも伸ばさなければならないが、そのための広告投資やシステム投資を行える状況ではなかった。比例してコストを増やさず、むしろ最適な状態で筋肉質にしながらも、売上も上げることが経営陣に求められていた。
クロス・オペレーショングループ選定の理由
アイセールス株式会社は、株式会社クロス・オペレーショングループの前身となる会社であり、オペレーショナル・エクセレンス実行の第一号の変革企業である。そのため、クロス・オペレーショングループの選定理由というよりも、なぜ経営戦略としてオペレーション改革を主軸に置いたのかを説明する。
今あるリソースのみを使い、売上利益を伸ばしていくことが経営陣の命題であり、そのための選択肢を練った。通常、各SaaSスタートアップが事業を伸ばすために取り得る選択である「広告投資」「採用投資」「プロダクト投資」以外でなければならない。今いる社員で売上利益を伸ばすために取り組むべきことは何かと考えたときに、経営戦略としてオペレーションに磨きをかけるしかなかった。
営業のプロや事業再生のプロではなく、オペレーションのプロを招き入れ(現クロス・オペレーショングループCOO)、オペレーショナル・エクセレンスへの改革をスタートさせた。
クロス・オペレーショングループの支援内容
実際にオペレーション改革のために実行した内容は、細かなものもあるが大きくは4つで、「失敗要因可視化」「VoE実施」「会議・1on1の廃止」「モノ売りの廃止」である。
失敗要因可視化
多くのスタートアップ企業は、ハードシングスが生じても、力強いビジョンを掲げて乗り越えていく。スタートアップには困難は付き物だということが固定概念にすらなっている。しかし、困難を引き起こしてしまった要因は必ずあり、突き詰めれば、それが外部環境であれ何であれ対応できなかった経営の意思決定が原因である。
ハードシングスと言えば聞こえがいいが、当初計画していたプロジェクトの失敗という事実であり、それ以上でもそれ以下でもない。失敗を失敗として向き合い、どう乗り越えるかを決める前に、徹底的に何が原因だったのかを全て洗い出し、責任を追求することは避けては通れない。その要因を取り繕うことなく可視化・言語化することを第一歩とした。その一つ一つの失敗の発生理由を分析し、今後の対応策、具体的なアクションまで策定した。
VoE実施
VoEとは、Voice of Employeeの略で、従業員の本音の声を収集することである。従業員が組織や職場、経営陣や上司に対して自分の考えや不満、提案を忖度することなく言える状況、仕組みを作ることを行った。スタートアップ企業の組織文化は、ある見方をすれば、一種のハイな状態にある。自分の考えというよりも、言葉を選ばずに言えば、宗教的な価値観の統一を行うことを意図的に行う。
短期的、瞬間的には爆発的なパフォーマンスを生み出すが、強固な土台は構築されておらず、何かの拍子に総崩れになる可能性が残る。多くのスタートアップ企業は、特定の少数が爆発的なパフォーマンスを発揮しながら、残された社員たちは、良くてミドルパフォーマンス、最悪ローパフォーマンスだが、ミッション共感度が高いという理由で、経営としては必要人材と錯覚していることが少なくない。これらの理由から、永続的な発展には不向きであり、中長期的には、従業員一人ひとりの価値観を尊重し自発的に動く組織構築が勝ることは明白である。
本プロジェクトにおいて、従業員一人ひとりのパフォーマンス向上は不可欠であり、そのために強制的な価値観統一ではなく、一人ひとりの価値観尊重を重視した。そのためには、従業員が役職や権限に関係なく、愚痴だろうか不満だろうが、思ったことを全て言える仕組みを整える必要があった。
「従業員の提案は何でも聞くが、代替案もセットで行うこと」「仕事は前向きな姿勢で取り組むべきで不平不満を言うべきではない」といった考えでマネジメントを行うことはせず、「代替案は無くてもOK。ここが組織、事業の問題だということを何でも言って欲しい」「不平不満・愚痴文句も大歓迎。人事評価に一切影響しない」という観点で、VoEを推進していった。
会議・1on1の廃止
社員を増やさず今いるリソースのみを使い売上利益を伸ばすためには、直接収益に関係のない業務時間を減らす必要があった。会議、1on1は顧客への価値提供を行う時間ではないため、収益業務ではない。会議の苦的が、現状の報告を行う、今後の打ち手を検討するという時間であるならが、それは業務オペレーションが明確に設定されていない証拠であり、オペレーションがクリアになっていれば、会議を行う必要はない。現状の報告は、わざわざ複数の社員の時間を調整せずとも何時でも見に行ける仕組みをつくれば済む。
1on1も無くし感情的なケアをしなくなって大丈夫か?という不安もあったが、そもそも感情的なケアが必要な状況というのは、従業員一人ひとりのヤル気の増減が事業数値に影響があるという証であり、その事実自体が好ましくない。
スタートアップ企業であるから、従業員に裁量権を与え、都度何をすべきか考えて働いてもらうというのは、マネジメント怠慢である。明確なオペレーションが構築されてこそ、従業員は成果も得やすく、結果的にやりがいを持って働くことができる。型にはめこみ考えない従業員にするのではなく、守破離の守を会社で整えることで、その先に、個々の強みが活かせる組織環境となる。
他にも、朝礼も辞め、オフィス出社も辞めた。飲み会や部活動支援など本質的ではない福利厚生も一切辞め、一番の福利厚生は給与をアップすることだとし、その分昇給させた。読書会等の社内研修や講師を招いての外部研修も辞めた。社員教育の最も適した方法は、通常業務を行いながら小さな成功体験を積んでいくことだと振り切り、徹底的に業務オペレーションを整え、業務プロセスを細分化し、ステップを踏めば誰でも実行できるほどに分解した。
口頭での空中戦によるコミュニケーションではなく、全てにおいてドキュメントに残す手間をかける社内文化の浸透も行った。手を動かさずに、口だけで済ませるコミュニケーションは、社内に知見や状況整理が蓄積されず、同じ問題を繰り返す。人によっても対応策や対応スピードも変わってしまう。ドキュメント文化を徹底することで、成功例も失敗例も蓄積され、誰でもその知見・情報を見に行ける仕組みが整い、オペレーショナル・エクセレンスを実現していく土台となった。
モノ売りの廃止
SaaS事業の多くは、安く広く(数多く)売るというビジネスモデルとなり、アイセールスも同様だった。売り方としては、顧客の声を聴いて各社への最適なソリューション提案ではなく、自社のプロダクトを如何に魅力的に伝えるかが重要であった。また、数多く売るためには、広告費の拡大、営業人員の増加も比例して求められ、本プロジェクトの条件と目的である、「今あるリソースのみで売上利益を伸ばす」こととは外れることとなる。
そのため、モノ売りの考えを廃止し、まずは既存顧客各社に提供プロダクト以外で提供できる価値が無いかを深くヒアリングしていった。カスタマーサクセスのハイタッチ要素を増やし、各社ごとの課題に適したソリューション提案を行った。それを無料ではなく有料で提供するという施策を進めた。これであれば、プロダクトの追加機能の投資がなくても顧客単価をアップすることができると考えた。
新規リードに関しても、ザ・モデル型のモノ売り営業体制のときは、リード母数が重要指標の一つであったが、ソリューション提案があれば、数少ないリードでも、受注率および受注額が増えるため、今あるリソースでも対応することができた。
成果
経営陣から失敗要因の分析と今後の方針を従業員に説明し、会議や1on1の廃止といった組織文化のバージョンアップも進めることによって、結果的に一部従業員は離れることとなった。しかし、本プロジェクトは着実に実行され、顧客単価の向上、新規契約の単価アップを実現した。売上は伸び、プロジェクト開始から半年後には、資金調達後はじめての単月MRRでの黒字化を達成した。その後も、毎月ストック収益により黒字化を達成し、9ヵ月後には、M&Aにて事業売却を行うこととなった。
その後、このアイセールスの成功例をキッカケに、他社にもオペレーショナル・エクセレンス構築の支援を開始し、M&Aを機に社名もアイセールス株式会社から株式会社クロス・オペレーショングループへと変更し、オペレーションマネジメント事業を行っている。
SaaS事業の売却後、新規事業であるオペレーションマネジメントも初月から黒字化を達成し、事業開始初年度(2023年時点)にも関わらず日経225銘柄の企業を複数社、その他も上場企業を中心に、業務改革・オペレーション構築のコンサルティングを軌道に乗せている。
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