コーポレートガバナンスコードとは、金融庁と東京証券取引所が共同でまとめた「上場企業統治指針」で、コーポレートガバナンスの実現に必要な原則を含んでいます。
このコーポレートガバナンスコードは、定期的に改訂され、2021年には新たに4つの項目が追加されました。
この記事では、コーポレートガバナンスコードの特徴や基本原則、そして2021年の改訂内容について詳しく解説します。
コーポレートガバナンスコードとは?
コーポレートガバナンスコードは、上場企業が実施する企業統治(コーポレートガバナンス)を具体化するための重要なガイドラインです。これは、「上場企業統治指針」としても知られ、企業が遵守すべき原則や指針を示しています。
また、このガイドラインは「Corporate Governance」の頭文字を取ってCGコードと略されることもあります。
この原則・指針には、企業の株主や顧客(取引先)、従業員といったステークホルダーとの望ましい関係性や、企業を監視し透明性を確保するための取締役会の設置など、上場企業の組織としての適切な姿勢について詳細に記述されています。
このため、企業は自身の統治慣行をこの指針に照らし合わせ、透明性と適切な統治を確保することが期待されます。外部からの評価や監査によって、企業のガバナンス実践が明確に把握されることとなります。
日本では、このコーポレートガバナンスコードは2015年に初めて策定され、2018年に1回目の改訂が行われました。そして、コロナ禍を契機に企業がガバナンスの諸問題にスピード感を持って取り組む必要性が高まったことから、2021年には2回目の改訂が実施されました。
コーポレートガバナンスとは?
ここで、コーポレートガバナンスについて押さえておきましょう。
通常、コーポレートガバナンスは「企業統治」と訳されます。コーポレートガバナンスとは、上場企業が不祥事や不正などを防ぎ、公正な判断や経営を行うために監視と統制を行う仕組みのことを指します。
監視するのは主に社外取締役や社外監査役です。これらの役職の人々は、ステークホルダー(従業員や債務者など)の代弁者として、企業の利益と持続可能な成長を促進する重要な役割を果たします。
コーポレートガバナンスの目的は、上場企業の透明性を確保し、株主やステークホルダーの権利や立場を尊重することです。また、これによって上場企業の価値を中長期的に向上させ、持続可能な競争力を確保することが狙いです。
企業は株主に対して利益を還元する一方で、自社の価値を向上させるためにも努力する必要があります。そのためには、株主をはじめとした様々なステークホルダー(関係者)の利害を考慮し、企業を適切に運営・発展させるための仕組みが重要です。この仕組みこそが、コーポレートガバナンスの要となります。
例えば、企業が不祥事を起こすと、その影響は直ちに株価に反映されることがあります。株価が急落すると、株主に対する利益還元が制約されてしまう可能性があります。
企業が適切に経営されるためには、外部からその企業を監視し透明性を高める機関(社外取締役や監査役、監査委員会など)を設置したり、社内のルールと規範を徹底することが欠かせません。コーポレートガバナンスがしっかりと実施されているかどうかは、企業の信頼性と長期的な繁栄に大きな影響を与える要因と言えるでしょう。
コーポレートガバナンスコードの制定の背景
コーポレートガバナンスコードの制定には、日本企業の国際的な評価が低下したことが背景として挙げられます。この低下した評価の背後にある要因の一つとして、日本企業の成長率の低さが挙げられます。
日本政府は2013年6月14日に閣議決定をした「日本再興戦略」で、コーポレートガバナンスの見直しを掲げ、日本企業を国際競争に勝つための体質に変革することを重要な項目として位置付けました。
その結果、2015年6月に金融庁と東京証券取引所がコーポレートガバナンスコードを策定し、上場企業への適用が開始されるようになりました。
なお、日本企業の国際的な評価の低下の原因は、経済産業省が2014年に公表した「伊藤レポート」(当時一橋大学教授の伊藤邦夫氏を座長としてまとめた報告書)で詳細に分析されています。この報告書によれば、国際的な観点から見て、日本企業の自己資本利益率(ROE)や株価が低いため、投資家にとって日本企業への投資メリットが限られていることが問題とされました。
この背景から、日本政府は、国外の投資家が日本企業への投資に魅力を感じ、日本企業の国際的な評価を向上させる必要性を認識しました。そして、コーポレートガバナンスコードの制定を決定し、企業の適切な統治と透明性を推進することを通じて、日本企業の国際的な競争力を高める取り組みを進めていくこととなりました。
コーポレートガバナンスコードの特徴
コーポレートガバナンスコードの特徴は、プリンシプルベース・アプローチ(原則主義)とコンプライ・オア・エクスプレイン(comply or explain)の2つの手法を採用していることです。
プリンシプルベース・アプローチ
プリンシプルベース・アプローチとは、詳細な取り決めを制定せずに、抽象的な原則だけを定めた「原則主義」のことをいいます。
ここでは、大まかなルールが提供され、各上場企業は自社の状況やニーズに合わせて具体的な措置を講じる自由度を持ちます。
この方法は、自由度と柔軟性が高いというメリットがありますが、抽象的な原則のため、人によって解釈の幅が広くなります。そのため、上場企業は原則の趣旨を十分に理解しなければなりません。
コンプライ・オア・エクスプレイン
コンプライ・オア・エクスプレインは、コーポレートガバナンスコードに従うか、それを遵守しない理由を説明することを求めるアプローチです。
上場企業が特定の原則を遵守しない場合、その理由を株主やステークホルダーに適切に説明する必要があります。企業は自身の状況や背景を考慮して、なぜ遵守しない選択をしたのかを透明に説明することで、ステークホルダーの理解を得ることが可能です。
コーポレートガバナンスコードの適用を受ける企業は、全ての原則を必ずしも一律に実施する必要はありません。一部の原則を遵守しないことは、その企業において実効的なコーポレートガバナンスが実現されていないとは限りません。ただし、その場合でも、遵守しない理由を説明することが求められます。
このアプローチによって、企業は自身の状況に合わせた適切な対応を取ることができ、より柔軟なガバナンス体制を構築することができます。
なお、東京証券取引所では、上場企業のコーポレートガバナンスの実施状況が公開されており、投資家や関係者は企業のガバナンス体制に関する情報を透明に確認することができます。
コーポレートガバナンスコードの構成
コーポレートガバナンスコードは、5つの基本原則から構成されています。これらの基本原則の下には、さらに細かく31の原則と47の補充原則の、総数83もの原則が示されました。
コーポレートガバナンスコード
基本原則
第1章 株主の権利・平等性の確保
【基本原則1】
【原則1-1.株主の権利の確保】
【原則1-2.株主総会における権利行使】
【原則1-3.資本政策の基本的な方針】
【原則1-4.政策保有株式】
【原則1-5.いわゆる買収防衛策】
【原則1-6.株主の利益を害する可能性のある資本政策】
【原則1-7.関連当事者間の取引】
第2章 株主以外のステークホルダーとの適切な協働
【基本原則2】
【原則2-1.中長期的な企業価値向上の基礎となる経営理念の策定】
【原則2-2.会社の行動準則の策定・実践】
【原則2-3.社会・環境問題をはじめとするサステナビリティーを巡る課題】
【原則2-4.女性の活躍促進を含む社内の多様性の確保】
【原則2-5.内部通報】
【原則2-6.企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮】
第3章 適切な情報開示と透明性の確保
【基本原則3】
【原則3-1.情報開示の充実】
【原則3-2.外部会計監査人】
第4章 取締役会等の責務
【基本原則4】
【原則4-1.取締役会の役割・責務(1)】
【原則4-2.取締役会の役割・責務(2)】
【原則4-3.取締役会の役割・責務(3)】
【原則4-4.監査役及び監査役会の役割・責務】
【原則4-5.取締役・監査役等の受託者責任】
【原則4-6.経営の監督と執行】
【原則4-7.独立社外取締役の役割・責務】
【原則4-8.独立社外取締役の有効な活用】
【原則4-9.独立社外取締役の独立性判断基準及び資質】
【原則4-10.任意の仕組みの活用】
【原則4-11.取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件】
【原則4-12.取締役会における審議の活性化】
【原則4-13.情報入手と支援体制】
【原則4-14.取締役・監査役のトレーニング】
第5章 株主との対話
【基本原則5】
【原則5-1.株主との建設的な対話に関する方針】
【原則5-2.経営戦略や経営計画の策定・公表】
基本原則の詳細は以下をご覧ください。
2021年の改訂について
2021年6月11日にコーポレートガバナンスコードが改訂されました。
この改訂は、社会環境が変化し続ける中でも、企業が持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を確保するために、迅速かつ適切に様々な問題に対応する必要性が高まったために行われました。
特に、コロナ禍といった非常事態への対応や、企業のガバナンス体制の強化が求められる状況を踏まえ、改訂が行われたのです。
また、プライム市場に上場する企業においては、従来のガバナンス基準を超えて、更なる高水準のガバナンスを目指すことが重要であるという考えも改訂の背景にあります。これにより、企業がより透明かつ効果的な組織運営を推進し、投資家やステークホルダーの信頼を築くことが促進されることとなるでしょう。
改訂されたコーポレートガバナンスコードには、以下の4つの新たな補充原則が導入されました。
改訂されたコーポレートガバナンスコードの4つの補充原則
- 取締役会の機能の発揮
- 企業の中核人材における多様性(ダイバーシティ)の確保
- サステナビリティを巡る課題への取組み
- 上記以外の主な課題
出典:日本取引所グループ「改訂コーポレートガバナンス・コードの公表」
1. 取締役会の機能の発揮
今回の改訂コードでは、以前よりも取締役会の構成において、社外取締役の割合の増加など独立性を求める内容になっています。
・取締役会の機能の発揮
・プライム市場上場企業において、独立社外取締役を3分の1以上選任
・指名委員会・報酬委員会の設置
・経営戦略に照らして取締役会が備えるべきスキル(知識・経験・能力)と、各取締役のスキルとの対応関係の公表
・他社での経営経験を有する経営人材を独立社外取締役として選任
今回の改訂では、取締役会の機能が迅速かつ実効性のあるものになるよう強調されています。また、社外取締役の存在が形式的ではなく、実質的な役割を果たすために、細かな設定が導入されています。これにより、企業のガバナンス体制がより透明かつ効果的になることが期待されています。
2. 企業の中核人材における多様性(ダイバーシティ)の確保
企業の中核となる人材において、多様性(ダイバーシティ)を促進することが、改訂されたコーポレートガバナンスコードにおいて重要な要件とされています。多様な背景や視点を持つ人材を組織に取り込むことは、企業の競争力向上や持続的な成長を支える一つの鍵とされています。改訂コードは、特に以下の2点を強調しています。
・企業の中核人材における多様性(ダイバーシティ)の確保
・管理職における多様性の確保(女性・外国人・中途採用者の登用)についての考え方と測定可能な自主目標の設定
多様性の確保に向けた人材育成方針・社内環境整備方針をその実施状況とあわせて公表する
これらを実施するにあたり、経営陣の意識改革をはじめとして、社内環境の整備や人材育成の方針と実施状況の開示もあわせて求められています。
3. サステナビリティを巡る課題への取組み
2021年の改訂コードでは、企業が環境に対する取り組みを強化するための項目が追加されました。これにより、企業が持続可能な経営を実現するために環境への配慮を強化し、サステナビリティ(持続可能性)を重視する方針を示すことが強調されています。
・サステナビリティを巡る課題への取組み
・プライム市場上場企業において、TCFD(*1)またはそれと同等の国際的枠組みに基づく気候変動に関する情報開示の質と量を充実
・サステナビリティについて基本的な方針を策定し、自社の取り組みを開示
(*1)TCFDは気候関連財務情報開示タスクフォースの略称で気候変動に関連するリスクや取り組みに関して積極的な情報開示を求めるもの
国際的に見るとすでにサスティナビリティ関連における情報開示の制度検討や、情報開示の統一的な枠組みの策定に向けた動きがあります。
日本企業に対しても、サスティナビリティを意識した経営が求められるようになりました。
4. 上記以外の主な課題
ここまで説明した上記の内容以外にも、追加された項目があります。
・プライム市場に上場する「子会社」において、独立社外取締役を過半数選任又は利益相反管理のための委員会の設置
・プライム市場上場企業において、議決権電子行使プラットフォーム利用と英文開示の促進
これらの追加項目により、企業のガバナンスが単一の企業だけでなく、グループ全体にわたって強化されることや、株主の権利行使を容易にする仕組みが整備されることで、より健全な経営環境が促進されることが意図されています。
また、株主が権利を行使できるようにするために、情報提供の充実について取り組むことと記載されました。具体的には、必要とされる情報の議決権電子行使プラットフォームの整備と、英字での情報開示が求められています。
まとめ
本記事では、コーポレートガバナンスコードの意味や特徴、2021年改訂のポイントなどについて解説しました。
企業はコーポレートガバナンスコードを単なる形式的な規則ではなく、組織の健全性と透明性を高め、ステークホルダーの信頼を確保するための大切な手段として捉えるべきです。コードの精神に基づき、適切な経営とガバナンスを実践することが、企業の長期的な成功につながるでしょう。
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