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営業戦略と営業戦術の違いとは?効果的な営業戦略立案方法と実行できる戦術へ落とし込む方法について解説

最終更新日:2024.10.16作成日:2023.11.20

営業活動において「戦略」と「戦術」はしばしば混同されがちですが、この2つは厳密には異なる概念です。営業戦術は、目の前の成約率を高めるための具体的なアプローチですが、戦略はもっと大きな視野で市場シェアや収益増を見据えた計画です。これらの違いを正確に理解することなく、効果的な営業戦略を策定するのは難しいでしょう。それぞれを理解し、適切に活用することが、企業の売上アップに直結します。

本記事では、特に経営者やマネージャー層に向けて、これらの違いを明確にし、効果的な営業戦略を立案し、それを具体的な営業戦術へと落とし込むための方法を解説します。

営業戦略と営業戦術の違い

営業活動を成功に導くためには、戦略と戦術の違いを理解し、それぞれを適切に用いることが不可欠です。営業戦略と営業戦術についてそれぞれ解説します。

営業戦略とは

営業戦略とは、企業の最終的な目標達成に向けて、長期的な視野を持って計画される方向性のことです。これは「何を売るのか」「誰に売るのか」「市場での位置づけは何か」などの大きな枠組みを決定するもので、事業の指針となります。これには、ターゲット市場の選定、顧客ニーズへの対応、価値提案の強化、販売チャネルの選択などが含まれます。例えば、新製品を市場に導入する際には、ターゲット顧客の特定・価格戦略・プロモーション戦略などを事前に策定しておく必要があります。目標を設定し、その達成のための一連の指針を示すことが営業戦略の役割です。

営業戦術とは

一方で営業戦術とは、その戦略を実現するための具体的な手法や活動のことを指します。これは「どのように売るのか」を具体化したアクションプランであり、短期から中期的な計画に該当します。例えば、オンラインでのプロモーション活動、セールスコールのスクリプト、クロージングのテクニックなど、実際の行動やプロセスが戦術に該当します。戦略が「正しいこと」を行うための計画であるのに対し、戦術は「ことを正しく行う」ための方法です。

営業戦略と営業戦術は相互依存

前述のように、営業戦略は「何を達成するか」という大枠を提供し、営業戦術は「それをどのように達成するか」という具体的な方法を定めます。

例を挙げると、市場シェアを10%拡大するというのが戦略であれば、そのために毎週の営業訪問数を増やす、特定の顧客セグメントに対するキャンペーンを実施する、新しい販売促進ツールを導入するなどが戦術にあたります。言い換えれば、戦略は目標地点へのコンパスの役割を果たし、戦術はその目標に至るまでのステップバイステップの道標となるのです。

営業戦略の重要性は、企業の長期的な成功に対する基盤を築くことにあります。逆に、営業戦術は短期的な成果を追求し、時には柔軟な対応が求められることがあります。営業戦略が確立していなければ、個々の戦術は方向性を失い、全体としての成果が見込めなくなるリスクがあります。

このように、営業戦略と営業戦術は相互に依存しながらも、それぞれが独自の役割を持っています。営業戦略が確立して初めて、効果的な営業戦術が可能になるのです。

効果的な営業戦略立案のための5つのステップ

営業戦略と営業戦術の違いを理解できたら、次は実際に営業戦略を策定するための5つのステップを紹介します。このステップを順に踏んでいくことで、効果的な営業戦略が策定できるようになります。

①目的を定義する

営業戦略策定の最初のステップは、目的を明確に定義することです。明確な目的があると、全ての営業活動がその目標達成に向かって一直線に進むことができます。

例えば、「年間での売上目標達成」が目的であれば、その目的に向けた各営業活動が計画されます。目的が不明確だと、営業チームは日々の活動で方向性を見失い、時間とリソースを無駄にする結果になりかねません。

目的を定義する際は、以下の点に留意しましょう。

  • 抽象的過ぎず、具体的で測定可能な目標を設定すること
    「売上を増やす」という目標ではなく、「年間で売上を20%増加させる」と明確にすることが必要です。
  • 全員が理解しやすい言葉を使うこと
    複雑な専門用語は避け、全員が目標を理解し共有できるようにすることが必要です。
  • 現実的であること
    現実離れした目標はチームのモチベーションを下げる原因となるので、達成可能な範囲内で設定することが必要です。

②現状の課題を明確にする

次に、現状の課題を明確にすることで、戦略が直面する障壁を認識し、それを克服するための方策を講じることができます。

例えば、競合他社に比べて自社製品の知名度が低い場合、その課題を明確にして対策を立てなければ、市場での立ち位置を改善することは難しいでしょう。課題が不明確なまま戦略を策定すると、その戦略は根本的な問題を解決できず、表面的な成果しか生まない可能性が高くなります。

現状の課題を明確にするためには、以下の点に留意しましょう。

  • 全方位からのフィードバックを取り入れること
    営業チームだけでなく、顧客サービスや製品開発チームの意見も聞くことが必要です。
  • データに基づいた課題の特定を行うこと
    感覚的な判断ではなく、市場データや顧客のフィードバックを活用することが必要です。
  • 優先順位をつけること
    すべての課題を同時に解決しようとせず、最も影響力のある課題から取り組みましょう。

③徹底的に顧客を理解する

顧客を徹底的に理解することは、顧客のニーズに最も効果的に応える製品やサービスを提供するために不可欠です。顧客の行動、ニーズ、痛点を把握することで、よりパーソナライズされた営業アプローチを実行できます。顧客理解が不足していると、市場の要求と無関係な営業活動に時間を浪費する結果となり、顧客獲得やリテンションに失敗する恐れがあります。

徹底的に顧客を理解するためには、以下の点に留意しましょう。

  • 市場調査と顧客インタビューを徹底すること
    定性的、定量的な両面から顧客の理解を深めることが必要です。
  • 顧客の変化に敏感であること
    顧客のニーズは時間と共に変化するため、継続的な監視が必要となります。
  • 多様な顧客セグメントを考慮すること
    一部の顧客だけでなく、多様な顧客層のニーズを把握することが必要です。

④内部環境・外部環境を分析する

内部環境の分析によって企業の強みや弱みを把握し、外部環境の分析によって市場の機会や脅威を理解することができます。これらの分析を行うことで、企業は市場の変化に対応し、持続可能な競争優位を築くことができます。

例えば、技術の進化が早い業界においては、最新のトレンドに対応した営業戦略を策定することが求められます。これらの分析を怠ると、戦略が市場の現実とかけ離れ、実行時に問題が生じる可能性があります。

内部環境・外部環境を分析する際は、以下の点に留意してください。

  • 定期的な分析の実施
    市場は常に変化しているため、一度きりの分析ではなく、周期的に行う必要があります。
  • SWOT分析の活用
    自社の強み、弱みだけでなく、市場の機会や脅威も評価します。SWOT分析については後述します。
  • 競合他社の動向を注視すること
    自社だけでなく、競合の状況も理解し、それを戦略に反映させましょう。

⑤施策の実行と成果判断の基準を明確にする

最終的なステップは、施策を実行し、その成果をどのように評価するかを決定することです。具体的なKPI(重要業績評価指標)を設定することで、実施した施策が成功しているかどうかを定量的に評価することができます。

例えば、新しい営業戦略に紐付く営業戦術を実施した結果、リードの質が向上したかどうかを評価するためには、リードごとの平均受注額やクローズまでの時間などのKPIが必要です。これらの基準がなければ、施策の効果を正確に判断することはできず、改善点を見出すことも困難になります。

施策の実行と成果判断の基準を明確にする際は、以下の点に留意してください。

  • 実行計画を詳細に明記する
    誰が、いつ、どのように施策を実行するかを明確にすることが必要です。
  • リアルタイムでの追跡と評価
    成果判断の基準に基づき、定期的なチェックポイントを設けることが必要です。
  • 柔軟な戦略の修正
    目標達成のためには、状況に応じて戦略を適宜調整する柔軟性が必要になります。

実行できる営業戦術に落とし込む方法

良い戦略があっても、それを実際の行動計画に落とし込み、実行することができなければ意味がありません。次に、営業戦略を効果的に営業戦術に落とし込むための方法を紹介します。

目標を具体的な行動計画にする

営業戦略で設定された目標を達成するためには、それを実際の行動計画に落とし込む必要があります。目標を「どのようにして達成するか」の行動に変換することがカギとなります。

例えば、「市場シェアを現在の10%から15%に増加させる」という戦略的目標があるとします。これを戦術に落とし込むためには、具体的な行動としては「ターゲット顧客へのアプローチ数を増やす」「既存顧客へのアップセルやクロスセルの機会を増やす」「競合に対する差別化ポイントを明確に打ち出す」といった行動計画を立てます。

このように、抽象的な目標を具体的な行動計画に落とし込むことが重要です。行動計画を立てる際には以下のポイントに気をつけてください。

  • SMART原則に従う
    行動計画を立てる際には、SMART(Specific, Measurable, Achievable, Relevant, Time-bound)原則に従いましょう。すなわち、目標は具体的で測定可能、達成可能、関連性があり、時間制限があるものでなければなりません。
  • 分解する
    大きな目標は達成が難しく感じられがちですが、それを小さなステップに分解することで、各ステップが実行可能な行動となります。市場シェアの拡大を目指す場合、顧客獲得の増加に焦点を当て、そのために必要な毎日または毎週のアクションプランを作成します。
  • 優先順位をつける
    全ての行動が同じ重要度を持つわけではありません。どの行動が最も影響力が高いかを評価し、リソースを効率的に割り当てます。80/20の原則(パレートの法則)を念頭に置き、成果の80%は努力の20%から生まれるという考え方を用いると効果的です。
  • アクションプランを文書化する
    行動計画は文書化し、チーム全員がアクセスできるようにします。これにより、各メンバーが自分の役割、責任、期限を正確に理解し、全員が同じ方向を向いて進むことができます。
  • チームのコミットメントを得る
    行動計画はチームメンバー全員のコミットメントが必要です。計画の立案段階からチームを巻き込むことで、責任感を持って計画に取り組むようになります。

複数のKPIを設定して、成果を検証する

営業戦略が計画通りに進行しているかどうかを検証するためには、KPI(重要業績評価指標)を設定することが重要です。KPIを設定することで、営業戦術の効果を定量的に測定し、必要に応じて調整を行うことができるようになります。

例として、「新規顧客獲得数」「顧客1人当たりの平均売上高」「クロージング率」など、戦略に対する具体的な成果を示す指標を設定します。これらのKPIは定期的にレビューし、目標に対する進捗状況を確認します。

KPIは営業戦略と営業戦術の効果を測る重要なものなので、適切に設定する必要があります。KPI設定の際は以下のポイントに気をつけてください。

  • 目標との整合性を確保する
    まず、営業戦略の目標と直接関連するKPIを選定します。例えば、新規顧客獲得が目標なら、獲得した新規顧客数や、新規顧客からの売上高がKPIとなり得ます。
  • 測定可能な指標を選ぶ
    KPIは具体的で測定可能なものでなければなりません。例えば、顧客満足度を測定するには、定期的なアンケートを実施し、数値化できる満足度スコアを設定することが一例です。
  • リード指標とラグ指標のバランスを取る
    リード指標は将来の成果を予測するものであり、ラグ指標は過去の成果を示します。例えば、リード指標としては週ごとの営業活動数、ラグ指標としては四半期売上が考えられます。両方を組み合わせることで、短期的な行動と長期的な成果の両方を追跡できます。
  • 関係者の合意を得る
    KPIは関係者全員で合意を形成することが重要です。営業チームはもちろんのこと、場合によっては経営層や他部署とも調整を行い、全員が納得する指標を設定します。
  • データ収集と分析のプロセスを確立する
    KPIを有効活用するためには、データ収集と分析のプロセスをしっかりと確立する必要があります。このためには、CRMシステムや営業支援ツールの利用を検討するなど、データを効率的に集め、分析するための仕組み作りが必要です。

継続的に戦術を改善していく

営業戦術は一度立てたら終わりではなく、市場や顧客の反応を見ながら継続的に改善を行う必要があります。この過程で重要なのは、フィードバックループを作ることです。営業活動の結果を収集し、それを次の行動計画に活かすことで、より効果的な営業戦術へと進化させることができます。

例えば、特定のプロモーション活動が期待した効果を生まなかった場合、その原因を分析し、ターゲット顧客のニーズに合わせた新しいアプローチを試みるなど、柔軟に戦術を修正していきます。

定期的な戦術の改善には、フィードバックループを適切に作ることが重要です。以下の点に留意してフィードバックループを作ってください。

  • データの収集
    まず始めに、営業活動に関するデータを収集します。これには、顧客とのやり取り、営業成績、マーケットの動向など、営業プロセスの各段階からのデータが含まれます。
  • 定量的・定性的フィードバックの分析
    収集したデータを用いて、営業戦術の効果を定量的に分析します。さらに、営業スタッフや顧客からの定性的なフィードバックも集め、その内容を分析します。これにより、数字だけでは把握しきれない顧客のニーズや市場の変化についての洞察を得ることができます。
  • レビューミーティングの実施
    定期的に営業チーム、マネージャー、必要であれば他の部門とも連携してレビューミーティングを実施します。このミーティングで、KPIの達成状況、達成できなかった理由、市場の変化、競合の動向などについて話し合い、情報を共有します。
  • アクションプランの修正
    レビューミーティングで得られた知見をもとに、アクションプランを修正します。これには、営業アプローチの変更、営業支援ツールの改善、トレーニングプログラムの導入などが含まれることがあります。
  • 実施とモニタリング
    改善された営業戦術を実施し、その効果をモニタリングします。この過程で新たなデータが収集され、それが次のフィードバックループの基になります。

まとめ

本記事では、営業戦略と営業戦術との違い、営業戦略策定のための5つのステップ、営業戦略を具体的な営業戦術に落とし込む方法について解説しました。ぜひ本記事を参考に営業戦略について考えてみてください。