属人化とは
属人化とは、企業内で特定の社員が担当している業務の詳細内容や進め方が、当人以外では分からなくなっている状態のことで、ビジネスの現場では一般的にはネガティブな文脈で使われている言葉です。本記事では、属人化が起こってしまう原因と、そのメリット・デメリット、属人化の具体的な解消方法について解説していきます。
属人化が起こる原因
属人化が起こってしまう原因としては、主に下記の4つが挙げられます。
1.業務が忙しすぎる
業務が忙しい状況では、特定の個人が一人で多くの業務を担当する必要が生じます。時間的な制約や優先度の高いタスクに追われる中で、業務を素早くこなすために、個人は自身の方法論やノウハウを独自に発展させることがあります。これにより、業務が個人に密着し、属人化が進行します。
また、業務が忙しい状況では、業務の引継ぎやドキュメンテーションなどの業務改善活動に割く時間が限られる場合があります。長期的な視点やプロセス改善に対する余裕がなくなり、業務の標準化や効率化の取り組みが後回しにされることがあります。他のメンバーや部門とのコミュニケーションや協力という点においても、個人が自身の業務に集中するため、情報共有や知識の共有がおろそかになる場合があります。
2.業務の専門性が高い
高度な技術や専門知識が求められる業務では、特定の個人がその業務を最も適切に処理することが期待されます。その個人は深い知識や経験を持ち、高度なスキルを持っていることが多いです。このような個人は他のメンバーよりも業務を迅速かつ効果的にこなすことができるため、組織内でその業務の専門家として認識され、業務が集中していく傾向があります。
また、高度な専門性を要する業務は、これまでの経験則や洞察力が重要とされることがあり、経験豊富なメンバーが業務を遂行している場合、その知見や洞察力は他のメンバーには容易には代替できません。業務の遂行が特定の経験や洞察力に依存する傾向が強まることにより、業務の属人化が進行します。
3.個人成果主義
「個人成果主義」が根付いている現場では、個々のメンバーの成果やパフォーマンスが評価や報酬に直結することが多いです。そのため、メンバーは自身の成果に焦点を置き、個人の業績を最大化することに注力する傾向があります。これによって、情報や知識の共有が後退し、業務の属人化が進行します。
また、個人が持つ情報やノウハウが、社内における競争においては、他のメンバーに対する優位性として考えられる傾向があります。そのため、各々がその優位性を守るために、必然的に情報共有の文化は根付かず、属人化が深刻化していきます。
4.情報共有の仕組みが確立していない
業務マニュアルや社内コミュニケーションツールが不足している場合、重要な業務や手順に関する情報が適切に伝達されず、特定の個人に知識やノウハウが集中し、属人化が進行する傾向があります。
また、情報共有の不足は、業務の透明性や連携の欠如を引き起こします。他のメンバーが業務に関する情報や進捗状況を把握できないため、業務の理解や協力が困難になります。これによって、特定の個人が業務を独占し、属人化が進行します。
属人化することによるデメリット・リスク
業務の属人化によって引き起こされる、リスクやデメリットには、主に下記の4つが挙げられます
1.業務効率が低下する
業務が属人化してしまうことによって、業務のフローにおいて特定の個人がボトルネックとなります。他のメンバーが業務をその個人に依存しているため、業務の進行や意思決定がその個人に集中し、その個人の能力によって業務がブロックされたり、意思決定が遅れたりすることで、業務のスピードや効率が低下してしまう可能性があります。
また、業務が特定の個人に依存している状況においては、休暇や異動など、その個人が業務を担当できない場合に、その業務に関する知識や手順が他のメンバーに共有されていないため、他のメンバーがその業務を代替することが困難となり、業務の進行や遂行が滞る可能性があります。
2.業務品質が低下する
業務が属人化している場合、顧客へのアプローチの方法や業務の進め方はそれぞれの担当者によって異なるため、サービスの品質がバラバラとなってしまい、安定した品質の提供を妨げてしまいます。
また、担当者によってサービスの品質がバラバラとなってしまうことは、顧客の不安感や不信感につながり、満足度を下げてしまう要因にもなってしまいます。
また、特定の個人のみが業務の全体像や課題を把握している場合、その個人が関与しないと問題の発見や解決が遅れることがあります。業務品質の向上や改善のためには、複数の視点や経験を活かした問題解決が重要であり、属人化がそれを制限する可能性があります。
3.品質管理やマネジメントが難しくなる
業務の属人化が進むと、情報が特定の個人に集中し、他のメンバーやマネージャーに必要な情報が十分に共有されていない場合があり、情報の断片化や可視性の低下により、業務のチェックやバランスが不十分になる可能性があります。特定の個人による業務の属人化が進行している場合、他者からのフィードバックが制約され、ミスやエラーの発見が遅れることがあります。
また、属人化された業務では、特定の個人に多くの責任が集中し、その業務を適切に管理するためにはマネジメントの負担が増えます。その個人とのコミュニケーションや調整、監督などの責任が増加し、マネジメントリソースの配分や効率性に課題が生じる可能性があります。
4.業務に対するノウハウを蓄積できない
属人化が進むと、業務に関する手順や方法が適切にドキュメント化されないことがあります。特定の個人が業務を担当し、その個人の頭の中にあるノウハウが書かれた文書化された形式になっていない場合、他のメンバーにはそのノウハウを学ぶ機会が制約されます。ドキュメンテーションの欠如はノウハウの蓄積を困難にします。
属人化した状態で仮に優れた実績を残していたとしても、ノウハウの共有がされなければ、組織としてその再現性を担保することができません。また、担当者が離職した際には、優れた実績を残したノウハウも同時に失われてしまうこととなり、組織の競争力の低下、失客にもつながる恐れがあります。
属人化を避けるべき業務とは
前述のとおり、属人化には多くのリスク・デメリットがありますが、下記の4つの業務については、特に属人化を避けておくべきものとなります。
1.経理・総務などのバックオフィス業務
バックオフィス業務が属人化を避けるべき理由は、業務の効率性、柔軟性、および持続可能性を確保するためです。属人化とは、特定の業務が特定の個人に依存する状態を指し、その個人が不在になった場合、業務が停滞するリスクが生じます。まず、効率性の観点から、業務が属人化していると、その知識やスキルが他のチームメンバーに共有されにくく、結果として業務のボトルネックが発生しやすくなります。次に、柔軟性に関しては、急な人事変更や個人の緊急事態に対応できるよう、業務プロセスを標準化し、複数の人員で対応可能な体制を整える必要があります。最後に、持続可能性の面では、属人化を避けることにより、組織は人材が変わっても業務を継続し、知識の伝承を行うことができます。これにより、組織のリスク管理を強化し、長期的な成長と発展を支えることができるのです。したがって、バックオフィス業務において属人化を避け、業務プロセスの標準化、マニュアル化、および適切なトレーニングを実施することが重要です。
2.顧客対応業務
顧客対応業務における属人化を避ける理由は、業務の効率性、一貫性、および組織の柔軟性を確保するためです。属人化すると、特定の従業員に依存し過ぎることで、その人が不在時に業務が滞り、顧客満足度が低下する可能性があります。また、新たな従業員の教育や業務の引継ぎが困難になり、組織全体の対応能力が低下します。一方、業務プロセスを標準化し、情報共有を促進することで、全従業員が一貫したサービスを提供できるようになり、顧客からの信頼を維持しやすくなります。さらに、属人化を避けることで、業務の効率化が進み、従業員間の負担が均等に分散され、ワークライフバランスの改善にも寄与します。
3.自社製品やサービスに対する説明
自社製品やサービスに関する説明が属人化を避けるべき理由は、知識の集中が業務の連続性、一貫性、および組織の拡張性に悪影響を及ぼすためです。特定の個人に依存する状態では、その人が休暇中や退職した場合、顧客への迅速かつ正確な情報提供が妨げられ、顧客満足度に影響を与えます。また、新しい従業員がその知識を学ぶ際に、不必要な時間やリソースが消費されることになります。知識を組織全体で共有することで、どの従業員も製品やサービスに関する質問に対応できるようになり、一貫した顧客体験を提供できます。これは、信頼とブランドの強化に直結します。さらに、属人化を避けることにより、組織はより柔軟に対応できるようになり、急な人事変更や市場の変動にも迅速に適応できる体制を整えることができます。
4.重大性の高いトラブルシューティングやインシデント対応
重大性の高いトラブルシューティングやインシデント対応において属人化を避けるべき理由は、組織の対応能力とレジリエンスを最大化するためです。属人化は、特定の個人の知識やスキルに過度に依存する状態を意味し、この状態では、その個人が不在の際に対応が遅れるリスクが高まります。重大なインシデントが発生した場合、迅速な対応は業務の連続性と顧客の信頼を維持する上で不可欠です。属人化が進むと、情報の共有が不十分となり、他のチームメンバーが適切に対応できなくなる可能性があります。また、属人化は知識の伝承やチーム内でのスキルアップの機会を制限し、組織全体の成長と発展を妨げます。緊急時に柔軟かつ多角的に対応できるよう、知識の共有とプロセスの標準化が重要です。これにより、どのチームメンバーも重要な対応手順を理解し、実行できるようになります。さらに、属人化を避けることで、リスク分散が可能となり、組織は人的リソースの変動や予期せぬ事態にも強くなります。プロセスの文書化、定期的なトレーニング、シミュレーションを通じて、チームは絶えずスキルを更新し、準備を整えることができます。
属人化がメリットとなる場合
一般的にはマイナスのイメージのある属人化ですが、一部の業務や特定の状況に限れば、メリットとなる場合があります。下記のような業務においては、属人化していることがむしろプラスに働きます。
1.高度な専門技術を要する業務
例えば、エンジニアリングなどの高度な専門技術を要する分野では、特定の個人が深い知識と経験を持っている場合があります。属人化された業務では、その個人が業務に集中し、その専門技術を最大限に活かすことにより、業務の品質や効率性が向上するメリットがあります。
また、高度な専門技術を要する業務では、専門家が自身のスキルを発展させることが重要です。属人化された業務では、専門家が自身のスキルセットを磨く機会が与えられ、専門性を高めることができます。結果的に、組織内の専門スキルの維持や競争力の維持につながるメリットがあります。
2.個別顧客へのサービス提供
特定の個人が顧客との関係を構築し、カスタマイズされたサービスを提供する業務では、その個人の人間性や信頼関係が重要な要素となり、顧客との長期的な関係構築や顧客満足度の向上につながることがあります。
しかしながら、それはあくまでもその特定の個人が恒久的に顧客との関係を維持し続けることが前提となっており、例えば、退職や異動などで顧客の担当者が変わるような場合には、属人化によるサービスの一貫性の欠如により、かえって顧客満足度を下げてしまう可能性があります。
これらの業務においても業務の属人化は一概には望ましくありません。知識や情報の共有、チーム間の連携、バックアップ体制の構築など、組織全体で業務をサポートする仕組みを整え、組織の効率性や持続性を考慮しながら、業務の属人化を適切に管理することが求められます。
属人化を解消するメリット
属人化の対義語として「標準化」という言葉があり、組織や業界において一定の基準や規格を定め、業務やプロセス、製品やサービスなどを一貫性のある形で統一することを指します。
業務の属人化を解消(標準化)することで組織に与えるメリットは、主に下記の3つが挙げられます
1.業務品質の維持・向上
属人化を解消することで、知識とスキルの共有、プロセスの標準化、および継続的な改善が促進されます。属人化が解消されると、特定の個人に依存せずに業務を進める体制が整い、チーム全体での知識の共有が活発になります。これにより、業務に関する情報が透明化され、全員がアクセス可能な状態になるため、業務遂行時の判断基準が明確になります。プロセスの標準化は、業務の一貫性を保ち、誤解やミスのリスクを減少させることに寄与します。各ステップが明確に文書化され、誰もがそれに従って作業を行うことで、業務品質は安定し、顧客からの信頼性が高まります。さらに、標準化されたプロセスは、新しい従業員の教育や業務の引継ぎを容易にし、人材の流動性が高まっても業務の質を維持することが可能になります。継続的な改善も属人化の解消によって促進されます。業務プロセスが全員に共有されることで、改善点やイノベーションの機会が見えやすくなり、チーム全体でのアイデアの共有や問題解決の取り組みが活性化します。これは、業務効率の向上だけでなく、顧客満足度の向上にも直結します。
2.業務効率・遂行速度の向上
業務の属人化の解消によって、知識やノウハウが全体で共有されます。チーム内のメンバーが持つ知識や経験が活かされ、情報やベストプラクティスがメンバー全体に共有されることで、業務のスタンダード化とプロセスの最適化が進められます。プロセスの最適化は効率的な業務フローの確立や改善によって、無駄な手間や時間の削減を図ります。これにより、業務の効率性や遂行速度が向上します。
また、属人化が解消されると、業務のリスク分散やバックアップ体制の構築が可能となります。特定の個人に依存しない業務遂行が行われることで、個人の不在や制約による業務の停滞や遅延を回避できます。チーム全体が業務をサポートし、必要なタイミングで業務を引き継ぐことができるため、業務の効率性や遂行速度が向上します。
3.組織運営の円滑化
業務の属人化の解消によって、業務プロセスの透明性が向上し、知識の共有が促進され、柔軟な人材配置が可能になります。属人化が進むと、特定の個人に業務知識や経験が集中し、その人が不在の時に業務が停滞するリスクが生じます。この状態を解消することで、業務の知識と経験が組織全体で共有されるようになり、誰もが必要な情報にアクセスし、適切に業務を遂行できるようになります。また、業務プロセスの標準化と文書化は、業務の透明性を高め、新たなメンバーの迅速なオンボーディングを可能にします。これは、人事異動や組織の再編があった場合でも、業務の連続性を保ち、品質の低下を防ぐ上で重要です。さらに、標準化された業務プロセスにより、組織内のコミュニケーションが改善され、意思決定の迅速化が実現します。属人化を解消することで、組織はさまざまなシナリオに対してより柔軟に対応できるようになります。例えば、緊急時には異なる部署のメンバーが迅速に協力し、問題を解決することが可能です。また、従業員のワークライフバランスが改善されることも、組織運営の円滑化に寄与します。特定の個人への過度な依存から脱却することで、従業員間の負担が均等に分散され、職場のストレスが軽減されます。
属人化を解消する5つのステップ
前述のとおり、属人化を解消することで、組織に多くのメリットをもたらすことができます。それでは、実際に属人化を解消するためにはどのような手順を取ればいいのでしょうか。
必要なステップは下記の4つです。
ステップ1:業務の実態把握と分析
業務の実態把握と分析は、属人化の解消に向けた重要なステップです。リスク特定や軽減策の立案、効率化や改善の機会の発見、ナレッジマネジメントの促進につながります。現状を正確に把握し、業務の優先順位を判断することで、組織全体の業務の効率性と持続性を向上させることができます。これにより、リスクの分散化やチームの協力強化、業務の継続性の確保など、組織にとって重要なメリットをもたらすことができます。
ステップ2:ボトルネックとなっている業務の選定
業務の標準化には時間とリソースが必要です。全ての業務を一度に標準化することは難しいため、限られたリソースを最適に活用する必要があります。ボトルネックとなっている業務の選定は、業務効率や品質に最も大きな影響を与える業務を優先的に改善することを意味します。
また、ボトルネックとなっている業務が解消されることで、他の関連業務にも波及効果が生じます。ある業務が他の業務のボトルネックとなっている場合、その業務の改善や標準化によって他の業務の効率性や品質も向上することが期待できます。
ステップ3:業務フローの整理
業務フローの整理によって、業務の手順やプロセスが明確化されます。各業務のステップや関連するタスクが整理され、どのような流れで業務が進行しているのかが可視化され、メンバーは業務全体を俯瞰し、業務の全体像を理解することができます。
整理された業務フローは、各段階でのチェックや検証ポイントを明確化し、品質管理を強化することができます。また、業務の手順や責任が明確になることで、ミスや過誤を防止する効果もあります。
ステップ4:マニュアルの作成
マニュアルの作成によって、業務の手順や方法を明確にドキュメント化することにより、組織内のメンバーが共通の理解を持ち、業務を一貫して実施することが可能となります。マニュアルは、業務の基準となるガイドラインとして役立ち、業務の一貫性と品質の向上を支援します。
また、マニュアルを作成することは業務の伝承と知識保持のために重要な役割を果たします。経験豊富なメンバーが退職したり異動したりした場合でも、マニュアルがあれば業務の知識やノウハウを引き継ぐことができ、継続的な業務の安定性を確保します。
ステップ5:継続的な施策の見直し
組織や業界は常に変化しています。市場環境や顧客ニーズの変化、技術の進歩などにより、業務にも変化が生じることがあります。継続的な施策の見直しによって、業務の標準化が変化に対応し、新たな要件や課題に適応することができます。
組織のメンバー全員が関与し継続的な施策の見直しを行うことによって、メンバーからのフィードバックや意見を収集し、取り入れることができます。メンバーの経験や視点を活かした改善や調整が行われることで、業務の標準化がより現実的で実効性のあるものになります。
まとめ
特定の従業員だけしか仕事の仕方を把握していない属人化状態は、業務効率や業務品質を悪化させる恐れがあるため、早期に解決すべき経営課題です。特に、バックオフィス業務や顧客対応業務は社内で業務の仕方を共有し属人化を防いでおかなければ、顧客からの信頼を失い、失客してしまうリスクもあります。
今一度、現状の業務プロセスを見直し、業務の属人化が発生していないかを確認し、もしも業務の属人化が発生しているのであれば、業務フローの整理やマニュアル作成など、誰もが高い品質で、継続して、効率的に業務を遂行することができるような仕組み作りをしてみてはいかがでしょうか。
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